2012年4月21日土曜日

横浜市衛生研究所:パスツレラ症について


流行は?

 近年、日本ではパスツレラ症(pasteurellosis)の患者発生が増えています。犬や猫に咬まれて感染する感染症としては、患者数が多いものの一つだと考えられています。

 パスツレラ症(pasteurellosis)は、人と動物の共通感染症の一つです。豚の パスツレラ症として、萎縮性鼻炎、肺炎、多発性関節炎などがあります。牛のパスツレラ症として、出血性敗血症があります。鳥のパスツレラ症として、家禽コレラがあります。ウサギのパスツレラ症として、鼻炎(スナッフル: snuffles)、肺炎、中耳炎、結膜炎、敗血症などがあります。

どんな病気?

 パスツレラ症はパスツレラ菌による感染症です。犬や猫がパスツレラ菌を持っていることが多いですが、犬や猫ではほとんど症状を起こしません。まれに猫で肺炎を起すことがあります。咬まれるあるいは引っかかれるなどして、犬や猫からパスツレラ菌をもらって人間がパスツレラ症を発病することがあります。

 犬や猫に咬まれてパスツレラ菌に感染した場合には、早ければ数時間で受傷部位が赤く腫れ、痛みや発熱を伴います。近くのリンパ節が腫れることもあります。パスツレラ症での受傷部位の炎症は皮下組織の中を広がり、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれます。 受傷部位が関節に近いときには、関節炎を起こすことがあります。骨に達するような傷であれば骨髄炎を起こします。免疫機能が低下している人では、重症化して敗血症や骨髄炎を起こし死亡することもあります。


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 咬まれなくても、犬や猫との接触によりパスツレラ菌を吸い込んで、呼吸器系で感染して、肺炎・気管支炎や副鼻腔炎などを起こすこともあります。気管支拡張症患者やコントロールができていない糖尿病患者・HIV感染者・悪性腫瘍患者など特に免疫機能が低下している人では、注意が必要です。

 治療としては、早期に抗生物質を投与します。抗生物質としては、ペニシリン系、テトラサイクリン系、セファロスポリン系、クロラムフェニコールなどが有効です。ただし、ペニシリン系に対しての耐性株もまれにあります。
 なお、犬や猫に咬まれて感染することがある微生物は、パスツレラ菌だけではありません。パスツレラ菌や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )が多く、他にも、連鎖球菌、コリネバクテリウム、Eikenella corrodens 、カプノサイトファーガ-カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus )など多数あります。Fusobacterium、Bacteroides、 Porphyromonas、Prevotella、Propionibacteriumなどの嫌気性菌もあります。破傷風や狂犬病の心配もあります。カプノサイトファーガ-カニモルサス感染症の重症例などでは死亡例も報告されていますが、受傷時に早急に医療機関を受診して消毒や抗生物質の投与等を受けていれば重症化しなかった可能性もあります。犬や猫に咬まれたら早急に医療機関を受診して、消毒や抗生物質の投与等、適切な治療を受けましょう。


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病原体は?

 パスツレラ菌は哺乳類の上気道や消化管に存在し、猫はほぼ100%、犬は約75%が持っているとされます。パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )、パスツレラ-カニス(Pasteurella canis )、パスツレラ-ダグマティス(Pasteurella dagmatis )、パスツレラ-ストマティス(Pasteurella stomatis )などのパスツレラ菌が犬や猫の口の中に存在します。犬や猫に咬まれたり、引っかかれたりして人間が感染することがありますが、人間のパスツレラ症の原因としては、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )が多いです。
 なお、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )は、さらに、subsp. multocida subsp. septica subsp. gallicida といった亜種(subspecies)に分類されます。

 犬による咬傷50と猫による咬傷57とについての調査研究があります(参考文献3)。咬傷から検出された細菌として多かったのは、犬による咬傷では、パスツレラ(Pasteurella )(50%)、連鎖球菌(46%)、ブドウ球菌(46%)、猫による咬傷では、パスツレラ(Pasteurella )(75%)、連鎖球菌(46%)、ブドウ球菌(35%)、Moraxella(35%)でした。犬による咬傷でも、猫による咬傷でも、検出された細菌としてはパスツレラ(Pasteurella )が一番多かったです。なお、パスツレラ(Pasteurella )の中では、犬による咬傷では、パスツレラ-カニス(Pasteurella canis )が多く、猫による咬傷では、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )のsubsp. multocida subsp. septica とが多かったです。


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 パスツレラ(Pasteurella )は、フランスの化学者・細菌学者のルイ-パスツール(Louis Pasteur ;1822年12月27日誕生、1895年9月28日死亡)に因んでの命名です。パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )は、1878年に家きんコレラ(fowl cholera)の鳥で発見され、1890年に家きんコレラ(fowl cholera)の病原体としてルイ-パスツール(Louis Pasteur)が分離しました。パスツレラ-ムルトシダは、犬や猫に限らず、ウサギ、牛、豚、鳥などの上気道に見られることがあります。日本では、「家きんコレラ」が家畜伝染病とされていて、鶏、あひる、うずら、および七面鳥が本菌に感染し、それらの70%以上が急性敗血症で死亡した場合に家畜伝染病の対象となります。家きんコレラは、経気道感染または経口感染します。 家きんコレラは、アジア、アフリカ、中近東、欧米などで発生がみられます。家きんコレラの予防のために海外ではワクチンも使用されています。
 なお、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida )の菌名のムルトシダ(multocida )については、ラテン語で「多数」を意味するmultusと「殺す」を意味するcidusとからなり、多くの鳥に対する家きんコレラの致死率の高さを示しています。

 パスツレラ-ガリナルム(Pasteurella gallinarum )は、鳥が持っていることがあります。パスツレラ-ガリナルム(Pasteurella gallinarum )による急性胃腸炎の患者が報告されていて、その患者はバーベキューパーティーでの鶏肉の摂取により感染した疑いがありました(参考文献2)。


予防のためには・・・

 犬や猫との接触に注意しましょう。寝室に犬や猫を入れないようにしましょう。犬や猫とベッドで一緒に寝ないようにしましょう。犬や猫とキスしないようにしましょう。犬や猫にエサを口移しで与えないようにしましょう。犬や猫と接触したら手洗い・うがいをしましょう。

 犬や猫に咬まれないようにしましょう。犬については、
当・横浜市衛生研究所ホームページ「犬による咬傷(こうしょう、かみきず:bite )について」をご参照ください。

 犬による咬傷50と猫による咬傷57とについての調査研究があります(参考文献3)。咬傷部位として多かったのは、犬による咬傷では、手(50%)、足・脚(20%)、顔面・頭頸部(16%)、肩・腕(12%)、猫による咬傷では、手(63%)、肩・腕(23%)、足・脚(12%)でした。犬だけでなく猫にも咬まれないように注意が必要です。また、前足をなめる猫の場合には、口の中の細菌を爪に付着させることにもなるので、猫に引っ掻かれないように注意が必要です。


参考文献

  1. 環境省自然環境局総務課動物愛護管理室、人と動物の共通感染症に関するガイドライン、平成19年3月。
  2. Yasutomo Arashima, Kimitoshi Kato, Reiko Kakuta, Toru Fukui, Kazunari Kumasaka, Toshio Tsuchiya, and Kinya Kawano; Brief Reports: First Case of Pasteurella gallinarum Isolation from Blood of a Patient with Symptoms of Acute Gastroenteritis in Japan; Clinical Infectious Diseases(CID), 1 September 1999;Vol. 29, No. 3:p. 698-699.
  3. DAVID A. TALAN , M.D., DIANE M. CITRON , B.S., FREDRICK M. ABRAHAMIAN , D.O., GREGORY J. MORAN , M.D., AND ELLIE J.C. GOLDSTEIN , M.D., FOR THE EMERGENCY MEDICINE ANIMAL BITE INFECTION STUDY GROUP; BACTERIOLOGIC ANALYSIS OF INFECTED DOG AND CAT BITES; N Engl J Med, January 14,1999;Volume 340, Number 2: p. 85-92.

2010年6月30日初掲載

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